飲食業は外食産業ではなくエンターテイメント業

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昨年のお話ですが、誕生日のサプライズを演出してくれるレストランに行きました。そのレストランの演出が粋だったので、飲食業は味ではなく、エンターテイメント要素が大きいと感じました。

店内では照明が落とされ、Happy Birthdayの曲が流れました。お店のスタッフはバースデーケーキを直接私たちのテーブルに運んで来ないで、店内をぐるぐる回って思わせぶりをした後、Happy Birthdayソングが終盤に近付いた頃、私たちのテーブルに運んで来ました。

何とも印象深かったのは、そのことではなく、店員さんの素敵な笑顔でした。接客業の笑顔としては満点でした。私は採点が厳しめで満点をつけることはほぼないのですが、この日ばかりは、店員さんの笑顔にしてやられました。他のお客さんもつられて笑顔になり、さらにパフォーマンスでみんなが笑顔になっていました。

素敵な笑顔で、何度ありがとうと言っても良いくらい素晴らしかったです。笑顔は笑顔を呼び、みんながハッピーになることができます。外食に興味のない私でも、また来たいと思ってしまいました。失礼な話ですが、食べたものはほとんど記憶には残っていませんが、店員さんの笑顔は鮮明に頭の中に残っています。

そのときふと思ったのが、外食で大切なことは、何を食べるかではなく、どこで食べるか、誰と食べるかではないかということです。今の時代、不味い飲食店はほとんどありません。何を食べてもそこそこおいしいのです。ずば抜けておいしいということもありますが、毎日食べたくなるほどのおいしさではありません。では、どのようにして差別化したら良いかと考えると、エンターテイメントではないかと思います。簡単に言ってしまえば楽しいかそうでないかです。

店内に釣り堀があり、釣った魚をその場で料理してもらい、食べることができるレストランがあります。魚が新鮮だから、美味しいからという理由で来店するのではなく、釣るのが面白いから、もしくは自分で釣った魚をその場で食べることができるから来店しているのだと思います。

新鮮さやおいしさで言えば、輸送中、狭い生簀でストレスを与えられた魚よりも、釣ってすぐに〆て均等に氷漬けにした魚の方が、鮮度が高くて美味しいはずです。スターバックスも雰囲気や居心地の良さを売っているのであって美味しいコーヒーを売っているのではありません。(砂糖水のようなコーヒーをご希望であればそれは売っています。余談ですが、コーヒーのおいしさで言えば個人的にはブルーボトルが好きです。)

以下のシチュエーションを想像してみて下さい。まったく同じ品質のものを食べたとしても、感じ方は大きく異なるはずです。

  • 居酒屋で食べるオイスターとフィッシャーマンズワーフで食べるオイスター
  • ファミリーレストランで食べる松坂牛とステーキハウスで食べる松坂牛
  • 気を使う取引先の担当者と食べる食事と恋人と食べる食事
  • 嫌いな上司と飲むお酒と気のおけない竹馬の友と飲むお酒

楽しければ小さなことは気にならないものです。料理や食器に髪の毛が入っていることもあります。確かに衛生上問題があるかもしれませんが、わざとやったわけではありません。お店の雰囲気が楽しければ交換してもらえば問題ない、お店の雰囲気が悪ければ小言のひとつも言いたくなるという人が多いのではないでしょうか。

こだわりの店は飲食店がエンターテイメント業であることを理解していないか、完ぺきに理解していてネガティブキャンペーンを張っているかどちらかでしょう。あるとき、こだわりの焼肉屋に行きました。私は一人で焼肉に行くことがあります。隣席でグループが盛り上がっていても、一人で修行しています。カナリア状態(大阪で女子高生を中心に人気のある大きなパフェを出すカフェにおっさん一人でパフェを食べに行く修行)です。その焼肉屋の店主は、今日は常連もなかなか食べることのできない希少部位が入ったとしきりに勧めてきました。私は希少部位には全く興味がなかったので「そうですか、それはそれは」とお茶を濁していました。が、攻撃(口撃?)は止まらず。私の中では「うるさい店主のいる不快な焼肉屋」と認識され、二度と行くことのないお店リストに入ってしまいました。

こだわりのラーメン屋、気取った高級レストランでもこのようなことは起こり得るのです。何時間煮込んだとか、どこどこ産の何々を使ったとか、一部のお客さんを除いて、そんなウンチクは聞きたくないのです。それよりも楽しい時間を過ごせるような工夫をしてほしいと思います。いかに高級な食材を使おうとも、エンターテイメント(雰囲気作り、店員の教育など)がなければリピーターは来ません。

もうひとつ。接客業といえばクレームと隣り合わせで、病んでやめてしまう人も多いようです。腹が立ったときはクレームを言う人が多いですが、良かった、楽しかったときは何も言わない人が多いように思います。良いときには大いに褒めてあげると笑顔が広がり、好循環が生まれるのではないかと思います。

コロナウィルスの影響で、行列のできる飲食店から行列が消えましたが、早く収束し、食事を楽しめるようになって欲しいと思います。