最近では不動産を負動産と呼ぶこともあるくらい不動産の価格は下落しています。都市のの一部地域を除き、下落傾向は続くと予想されています。2017年末時点で言えば、都市の一部地域においてはマンションが購入時よりも高く売れるケースが頻発しています。
郊外の庭付き一戸建てが数十万円で取引されたというニュースや、数千万円した別荘地が数十万円で取引されたニュースを見ると、どこにそんな物件があるんだと疑問を抱くかもしれません。インターネットで検索しても物件情報が出てこないので不思議に思うのも無理はありません。なぜそのような物件は表に出てこないのでしょうか?
理由は手数料です。現在、国交省では安価な中古住宅を流通させるために、この手数料制度の見直しをしているそうです。不動産業者からすれば100万円の不動産を仲介しても100億円の不動産を仲介しても手間はほとんど変わりません。また、仲介手数料は下記のように定められています。
200万円以下の部分 5%以内(消費税が別途かかります。)
200万円を超え400万円以下の部分 4%以内(消費税が別途かかります。)
400万円を超える部分 3%以内(消費税が別途かかります。)
たとえば売買価格が1,000万円の土地の仲介手数料の上限額は400万円を超えているから3%で30万円という計算方法ではありません。
200万円までの部分は200万円×5%=10万円
200万円超 400万円までの部分は200万円×4%=8万円
400万円超 1,000万円までの部分は600万円×3%=18万円
10万円+8万円+18万円=36万円+消費税
この計算方法は面倒なので速算式があります。宅建の試験にもよく出題されます。
200万円以下の部分 5%
200万円を超え400万円以下の部分 4%+2万円
400万円を超える部分 3%以内+6万円
上記、1,000万円の物件ですと3%+6万円で36万円になります。
実はこれには少しからくりがあります。「200万円以下の部分は5%以内」となっています。上限が5%ということですから、3%でも1%でも無料でも良いことになります。不動産業者はこの点について触れることはほとんどなく、暗黙の了解で5%となっているところが多いように思います。
また、この手数料は片方からもらえる手数料の上限ですから、売り手と買い手の双方代理(アメリカでは双方代理は不正の温床になるので禁止されているそうです)をした場合、手数料は両方からもらえる(業界用語では両手と言う)ので倍の金額になります。
100万円の物件を仲介した場合の手数料は最大で5%、両手だったとしても10万円です。高額な不動産を扱うことが多い不動産業にしてみれば割に合わない報酬です。売買の場合、物件の調査など、賃貸よりもだいぶ手間がかかります。従業員の人件費を考えると割に合わないのが現状です。
調査費や広告料の名目で手数料を上乗せすることも禁止されています(実際には広告料として請求する不動産業者が多い)から、これ以上はどうしても取ることができません。あえて言うならば、他の物件で儲けさせてもらったり、微々たるものですが司法書士や土地家屋調査士などからキックバックをもらうほかありません。ボロ物件を紹介してリフォームでしっかり儲ける業者もいます。
近年は無料物件、マイナス物件(値段が付かず逆に処分料などとしてお金がもらえる物件)さえも出てきています。その場合、物件価格は0円ですから、手数料をもらうと違法、つまり手数料をもらえない状況が生じます。
上記のような理由から、多くの不動産業者は格安物件を扱うことに消極的なのです。
格安物件が表に出てくるのはそれなりの事情がある場合だけです。たとえば物件を多く持っている地主に頼まれたり、親せきなどで断れない場合などです。数は少ないですが、ネット上にも出ています。
不動産の取引は個人間でも可能です。もっと言えば、登記も司法書士に頼まず個人で手続き可能です。不動産取引を不動産業者に依頼するのは手間と安心のためです。登記簿を取ったり、複雑な権利関係を調べてもらったり、契約書の作成など全て任せることができます。さらには司法書士を紹介、登記まで完結することができます。必要があれば住宅ローンや火災保険の手配もしてくれます。
しかし先述のように自分で上記の手続きをすることも不可能ではありません。格安物件であればローンは必要ありませんから銀行も関係ありません。しかしながら司法書士や税理士は相続関連の情報を持っていますから、うまく付き合えば良い物件の情報が出てくることもあります。登記は自分でできないこともありませんが、司法書士に任せて人間関係を構築すると得することが多いように思います。
不動産業界は魑魅魍魎の世界です。怪しい人、非常識な人、とにかく普通の感覚ではない人が少なくありません。業界団体も関係者も利権で固められた世界です。私も不動産会社を経営したことがありますが、関わりたくないと思う人が多く、心労が絶えず、僅か3年で辞めてしまいました。現在は視点を変えて不動産テックを目指しています。
不動産業界の利権にまみれた世界にイノベーションを起こしたいと考えている人は少なくありません。しかしながら不動産テックは既存の情報をクロールして利用しているだけで根本的なイノベーションにはなっていません。まずはアメリカのように情報をすべてオープンにする必要があります。
どの不動産屋も基本的にはレインズ(REINS)というデータベースを利用しています。業者だけが利用できる情報です。特に賃貸をしている不動産屋にとっては命綱と言っても良いものですが、この程度の情報であればアメリカでは一般公開されています。売買になるともっと悲惨でレインズにはゴミ情報しか掲載されていません。良い物件はレインズ掲載前に売れてしまいます。
一般人は非常に限られた情報で取引せざるを得ないのですから、プロ(と言っても情報を持っているだけですが)を頼るしかないのです。少なくとも一般人が過去の売買価格の推移、履歴などを閲覧できるようになれば不動産市場はぱっせい化すると思います。画期的な不動産テックが出てくることが望まれます。
これはだいぶ前に書いた記事です。現在は、低廉な空き家等の売買に関する特例ができました。安い不動産の場合、手数料が安いために積極的に売買されない現状を鑑み、現地調査費などを手数料として上乗せできるようになりました。但し、上限は18万円+消費税ですから、積極的にやろうという不動産業者は増えそうにありません。おそらく個人売買が増えるのではないかと思います。