加害者家族

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わが国では、被害者の話を聞く機会はあれど、加害者及びその親族の話を聞く機会はほとんどありません。この点からもアメリカのオープンな空気、困難を乗り越えて先に進もうというフロンティアスピリッツのようなものを垣間見ることができます。どんなことでもまずは話を聞き、可能な限り受け入れていくという姿勢は、成熟社会であり、民度の高さを示しています。

一方、今回のコロナ騒動で、三重県の感染者の家に石が投げ入れられたり、壁に落書きされたり、引越しを余儀なくされたという話を聞き、ショックを受けた人は多いかと思います。日本では受け入れるのではなく、村八分にして、隔離、排除という民度の低い対応が横行しています。寛容、社会的包摂とは程遠い社会です。勘違いしないでいただきたいのは、私はアメリカを手放しで賞賛しているわけではありません。日本よりはましだと言っているだけなのです。

ロビー活動が活発なアメリカ社会において、銃規制は非常に悩ましい問題です。全廃は現実的ではなく、コントロール(抑制)が最大限できることかもしれません。というよりも全廃しようという考えはないのかもしれません。概してアメリカ社会は危険なものを排除するのではなく、コントロールしようという動きがあります。たとえばライターには必ず安全装置がついていますし、カミソリも日本のように簡単には買えません。危険なものをうまくコントロールして共存を目指しているのです。

考えてみれば銃は思うほど危険なものではないのかもしれません。もちろん、銃には殺傷能力があり、直接人の命を奪うことができます。アメリカ人の死因の上位に入っており、毎年1万3000人ほどが銃によって命を奪われているというデータがあります。この数が多いと感じるか少ないと感じるかは人それぞれですが、私は「政策」で亡くなる人の方が圧倒的に多いと感じています。例えば、政府が発がん性物質の使用を規制せず、ガンでなくなる人が急増しても死因は「がん」であり、政策ではありません。政策は生命に直接的には関係ないように思えますが、実は多大な影響を与えているのです。今回の新型コロナにおいてもどれだけの人が、直接的、間接的に命を落としたでしょうか。

話は逸れてしまいましたが、Sue Kleboldのスピーチは、数あるTED動画の中でも珍しく、重い空気の中、進められています。多くの人が葛藤を抱きながらも前向きに何かを吸収しようとしているのではないかと思います。少なくとも私たちの視点をひとつ増やしてくれることでしょう。

とりわけ、身近な人の変化に気付くかということは大切だと思います。大切な人を失わないためにも、日ごろから十分なコミュニケーションをとりたいものです。精神の病は他の疾病とは異なり、目に見えません。罹患した明確なタイミングが分かるわけでもありません。目に見えないものを理解できる能力が必要になってきます。

人の立場になって考えることも言うまでもなく大切なことです。自分には関係ないと切り捨ててしまうのは簡単ですが、いつか自分にも起きうることかもしれないと考え、学習する姿勢が大切です。人生、いつどこで落とし穴があるか分かりません。平凡でありながらも幸せである毎日が、突如として地獄に落とされることもあります。他人事ではなく、自分のことのように考えるようにしたいものです。

拒絶するのは簡単ですが、受け入れるのは容易ではありません。責任をとって辞めることは、ある意味では非常に簡単なことだと思います。しかしながら辞めることで責任が取れるようには思えません。Sue Kleboldのように、誹謗中傷を受けながらも、二度とこのような惨事が起きないように啓発活動するのは本当の意味での責任なのかもしれません。

何かアクションを起こすうえで、大切なのは法律です。少なくとも法治国家において法律を知っていることは、言葉を知っているのと同じくらい大切なことなのです。なぜなら、法律は弱い者の味方ではなく、知っている者の味方だからです。社会に出る前に、基本的な法律知識は習得しておきたいものです。

犯罪を犯すと、刑務所に入ることになります(そうでない場合もある)が、塀の中も私たちの多くが見たことがない世界です。実際に入った人の本を読んだり、開放日に訪れてみるのも良いでしょう。スペインやイタリアのように、極力刑務所に入れない政策の国もあります。アメリカでは犯罪者がヒーローのように扱われることがあります。追っかけまでいることさえあります。フィリピンやメキシコなどでは一部の受刑者は「刑務所内にいる」だけで外と何ら変わらない生活をしている人もいます。また、刑務所内は警備が厳重ということで、刑務所をアジトのように使っているマフィアもいるそうです。興味のある人は記事の下にある関連書籍を読んでいただければと思います。

最後になりますが、世の中のほとんどのことは矛盾の上に成り立っています。ですから、大切なのは、どちらか一方が良い悪いではなく、バランスだと思います。私はいつも読書を読書を勧めますが、あくまでも基礎知識として必要だからです。学者に多いのですが、本を読んだだけで、すべてを悟ったような気になってしまう人がいます。本を読んで理解できたというのは、理論を理解した程度の話であり、現実を理解したことにはなりません。理論と実践のバランスをとりたいものです。とは言え、当事者の気持ちは当事者しかわかりません。歩み寄れば、近いところまでは理解できるかもしれませんが、当事者とは間違いなく乖離があります。お話ししたいことがたくさんあり、まとまりのない文章になってしまいましたが、今日はこれくらいにしておきましょう。

【関連書籍及び動画】

  • ボウリング・フォー・コロンバイン」 監督/脚本/出演 マイケル・ムーア【おすすめ】
  • マリファナも銃もバカもOKの国 町山 智浩(著)
  • 経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策 デヴィッド・スタックラー (著), サンジェイ・バス (著) 【おすすめ】*和書は読んでいませんが洋書は面白かったです。
  • 加害者家族 (幻冬舎新書) 鈴木 伸元
  • マンガでやさしくわかる傾聴 古宮昇 (著), サノマリナ(著)
  • 産業医が見る過労自殺企業の内側 (集英社新書)大室正志
  • 過労自殺 第二版 (岩波新書)川人 博
  • 2円で刑務所、5億で執行猶予 (光文社新書) 浜井 浩一 (著)【おすすめ】
  • 悪魔のささやき (集英社新書) 加賀乙彦 (著) 【おすすめ】
  • 精神障害者をどう裁くか (光文社新書) 岩波 明 (著) 
  • ルポ 難民化する老人たち (イースト新書) 林美保子 (著)
  • 刑務所の経済学 中島隆信 (著) 【おすすめ】
  • 世界の刑務所を訪ねて(小学館新書)田中和徳 (著), 渡辺博道 (著), 秋葉賢也 (著)  
  • 裁判のしくみが面白いほどわかる本  伊東良徳 (著)
  • 裁判官の爆笑お言葉集 (幻冬舎新書) 長嶺 超輝 (著)
  • 裁判の非情と人情 (岩波新書) 原田 國男(著)
  • 阿曽山大噴火の面白人間傍聴記~法廷で逢いましょう~(漫画)
  • 本当にあったトンデモ法律トラブル 突然の理不尽から身を守るケース・スタディ36 (幻冬舎新書) 荘司雅彦 (著)
  • 説得の戦略 交渉心理学入門 荘司雅彦 (著)